決算書の読み解き方⑥【損益計算書】
今回も決算書の損益計算書(P/L)の説明の続きとなります。前回記事の続きとなっていますので、まだ読まれていない方はそちらを先に参照頂けると、より理解しやすいと思います。
損益計算書から読み解けるもの
前回記事で説明した通り、損益計算書は主に以下のような構成になっており、売上高をスタート地点として最終的に企業の手元に残る純利益までの経過が分かるような構成になっています。
下図は主に日本の会計基準に沿った構成ですが、世の中には国際標準の会計基準とされる「IFRS」や米国独自の「米国会計基準(US-GAAP)」といった会計基準もあるため、売上高⇒純利益までの過程はまちまちだったりします。(最終的に純利益を求めるのは一緒ですが)
今回も主に日本の会計基準に沿った読み解き方で説明していきますが、他の会計基準を採用している場合でも概ね同様の分析ができるので、色んな企業の決算書で比較してみると面白いですよ😀
なお、今回も同様に2019年末時点での資生堂の損益計算書を基に解説していきます。
損益計算書からは、主に以下を読み解く事ができます。
売上高に対する各種利益率
まずは一番分かりやすい指標として、スタート地点である売上高に対する各種利益(売上総利益、営業利益、経常利益、純利益)の割合を示した利益率を挙げることができます。
売上高に対する売上総利益率(粗利率)は、シンプルに売上高に対してどれだけ原価を抑えて利益を得ているのかを読み取る事ができます。
商売で利益を増やしていくためには、①売上高を増やすか、②原価や費用を抑えるかのどちらかしか無いため、原価を抑えた上で売上高を伸ばしていける企業は高い収益性(=稼ぐ力) を持っていると考えることができます。
売上総利益率の割合は業種によって本当に様々で、一般的には製造業が15%~25%くらいである一方、近年の情報技術関連の会社だったり、製薬会社などは60%を超えるような非常に高い値となっている事があります。
売上高に対する営業利益率は、原価に加えて経費も考慮に入れた上でどれだけ利益を残せているかを読み取る事ができます。
ここでも売上総利益率と同様に、利益を上げるためには売上高に対して原価と経費を抑える必要があるため、営業利益率は企業の収益力そのものとして、一般的にかなり重要視されています。
売上高に対する経常利益率は、上記の営業利益率をベースに利子配当による収益や、逆に借金に対する利息支払いの影響を考慮した場合の利益率になります。
大多数の会社は、本業による収益と比べれば利子配当や利息支払の金額は小さいものですから、営業利益率と経常利益率に大きな差は出ることはあまり無いと考えられます。
したがって、逆に考えれば経常利益率が営業利益率より高い状態が継続しているような企業は本業以外でも収益をサポートできる手段を持っている財務能力が高い企業である、と言い換えることもできます。
売上高に対する純利益率は、売上高に対して一番最後に手元に残った純利益がどの程度かを表しているので、株主にとっての直接的な利益を見るのに役に立つ指標と言えます。
しかし、純利益を求める前の過程には特別利益や特別損失のような突発的なランダムイベントによる影響が入っていますので、純利益率だけ見ていれば良いというわけにはいかないのが難しくも面白いところですね😌
(あくまで私個人の考えですが)個別株投資というのは「企業がいくら稼ぐことができたか」という過去の側面よりも、「将来どれだけの利益を稼ぐことができるのか」という未来の側面を見て期待しながら投資するものだと考えていますので、純利益率だけではなく企業の今後の成長性を想像するのに必要な売上総利益率 or 営業利益率を見ていく必要があると考えています。
サンプルとして2019年末の資生堂のP/Lを見てみると、
売上高 :1,131,547 M¥(1兆1315億47百万円)
売上総利益: 876,703 M¥(8767億3百万円)
営業利益 : 113,831 M¥(1138億31百万円)
経常利益 : 108,739 M¥(1087億39百万円)
純利益 : 77,301 M¥(773億1百万円)
以上から、それぞれの利益率が以下のように計算できます。
売上総利益率:77.48 %
営業利益率 :10.06 %
経常利益率 : 9.61 %
純利益率 : 6.83 %
以上のような利益率を算出しておくと、例えば以下のような比較をする事ができるようになります。
①同じ業界(化粧品関連で言えばコーセー等)の競合企業と比べてどちらが収益性が高いビジネスができている方へ投資するといった判断をすることができますし、
②全く違う業種(時価総額が同程度の富士通やセブン&アイHLD等)と比べてみて、より収益率が高い業種の方へ投資するといった判断をする事もできるようになります。
試しに、同じ化粧品の製造・販売会社であるコーセーと比較してみましょう。
2019年末のコーセーP/L
売上高 :327,724 M¥(3277億47百万円)
売上総利益:239,020 M¥(2390億20百万円)
営業利益 : 40,231 M¥(402億31百万円)
経常利益 : 40,932 M¥(409億32百万円)
純利益 : 27,833 M¥(278億33百万円)
以上から、それぞれの利益率が以下のように計算できます。
売上総利益率:72.93 %
営業利益率 :12.28 %
経常利益率 :12.49 %
純利益率 : 8.49 %
売上総利益率で比べてみると、資生堂が77.48%と上回っているため、より商品の原価を抑えたビジネスができている事が分かりますね。
そもそも化粧品の業界自体が売上高に対して原価が低い傾向にあることが分かりますが(両社とも70%越え)、資生堂の方がより原価を抑える手段を持っているか、もしくはブランド力により高い値段設定でも売れているという事が想像できますね。
一方、営業利益率となるとコーセーの方が12.28%とより高い収益性を持っていることが分かります。
理由としては販売費および一般管理費の割合が、コーセーの方が低く抑えられているためです。資生堂の販売費および一般管理費の中身までは今回調べていないため直接比較はできませんが、コーセーの方がより効率的に稼いでいるということが読み取れます。
そして純利益率もコーセーが8.49%と、資生堂を上回る収益性を出しているため、株主にとって効率良く稼いでくれる企業だという事が最終的に分かりました。
まとめ
以上、今回も損益計算書から読み解ける内容を解説してみました。
最後の分析はあくまでP/Lから分かる収益性にのみ着目した結果なので、これだけで投資判断ができるわけではないですし、また一概にどちらの企業が良いと言えるものでもありません😅
しかし、今回のような比較を行うとどういう業界や会社が効率良く稼いでいる会社なのかという客観的な事実が分かるため、色々と分析をしてみて自分なりの比較データベースを作っていくと面白いですよ!😆
それでは、今回の記事が読んで頂いた方の参考になれば幸いです🌟
それでは、また~。