【まとめ&感想】ストーリーとしての競争戦略

本記事は、最近読んだ本である「ストーリーとしての競争戦略」の自分用まとめ & 感想となります。

本書は一橋ビジネススクール教授の楠木建氏が著者となっており、長期的な利益を生み出す事を可能にする優れた競争戦略とはどのようなものか、という事について書かれています。

2010年と割と昔に出版された本ですが、内容は普遍的なものであり現在読んでも大いに勉強になるものがありました。

本書が特徴的なのは、本のタイトルにもあるように、優れた経営戦略とは「人に話したくて仕方がないほど面白いストーリー」である必要があると説いている点です。

著者は本書の冒頭付近で、経営というのは前提として理論が2割、気合や野生の勘が8割といきなり経営戦略論の存在意義を疑うような事を書いています。

しかし逆説的に、将来は不確実だからこそ我々はこの道筋に沿って進んでいこうと現場も含めた企業全体が信じ込めるくらいの筋の良く論理立ったストーリーが重要になってくる、という訳なのですね。

優れた戦略ストーリーとは

本書において、経営戦略の本質は「他との違いを作ること & 繋げること (統合 & シンセシス)」であると説いています。

前提として、経済学的にはあらゆる事業というのは競争状態に置かれており、儲けが出ないの一番自然な状態だとされています。つまり裏を返せば、儲けを出すには他との違いを作るための戦略が必要になってきます。 (例外として、そもそも前提条件となる競争相手がいない無競争状態にすれば戦略は極論不要になるが、現実に可能なものはごく少数の事例に留まる)

他との違いを作り長期的に利益を上げられる優れた戦略ストーリーは、以下のような起承転結で構成されています。

起…コンセプト
承…競争優位
転…クリティカル・コア
結…長期利益の実現

まず、ストーリーは終わり(結)から考えていく必要があります。

まず、利益を出す理屈はそのサービスや商品に支払っても良いと思う価格水準 Willingness to pay (WTP) とコストの兼ね合いで決まっており、WTP – コスト = 利益となっています。

つまり、利益を上げるには WTP を上げるか、コストを下げるかの2通りしか無いため、戦略ストーリーを組み立てる際にはどちらに軸足を置くかをはっきり定める必要があります。

コンセプト(起)は、「誰に」「何を」売るのか、また本質としてどのような「価値」を売っているのかが明瞭である必要があります。

そのコンセプトは誰を喜ばせるのか、価値を提供するターゲットを明確に定めるという事ですが、これは裏を返せば誰に嫌われるかを決める事でもあります。(八方美人は禁物)

また、コンセプトはごく普通の人々の普遍的な本性を捉えたものでなければ、打ち立てた戦略ストーリーは上手く機能しません。時代が変わり新技術や新概念が生まれても、ビジネスが人間を対象にしている以上はここは変わりません。

次に競争優位(承)について、まず前提として利益の大きさというものはどうやって戦うか、ではなく、どこで戦うかで大半が決まってきます。

本書で引用されている一般的な経営概念として 5つの圧力(ファイブフォース) というものがあり、利益を出しやすい業界なのか、出しにくい業界なのかというのは業界毎のファイブフォースの度合によって予め決まってしまうというものです。

【参考】 ファイブフォース(5フォース)分析とは?方法と有効な活用法 (salesforce.com へのリンク)

業界環境というものは個々の企業では変えようもありませんが、しかし、長期で見ればそれはやがて失われていくもの。そこで大切になってくるのが他との違いを作り競争優位を築くための戦略ストーリーという訳ですね。

他との違いの作り方には大別して2つあり、1つは業界内の位置取りに着目した Strategic Positioning (SP) の戦略論、もう1つは他が簡単に真似できない独自の強みを築く事に着目した Organizational Capability (OC) の戦略論があります。

SPの戦略論は可能な限り無競争状態を作り出すことを理想としており、そのために何をやるのかを決め、何をやらないのかを決める事となります。

こうしたトレードオフ(取捨選択)をした上で、自分が取るべき業界内での位置取りを決めていく訳ですね。

一方の OCの戦略論は、他が模倣する事が難しい組織体制や仕事のやり方を時間を掛けて構築していく事に注目しています。

それらは大抵長い時間を掛けて築かれるものであり、また日常業務レベルに溶け込んでいるため外部からも見えにくく真似されにくいという特徴を持っています。

上記のように、SPとOCの戦略論は対比の関係に置かれており、SPの戦略論は手の内にある経営資源の振り分け方、OCの戦略論は振り分けられた資源を強靭な組織能力へ錬成していく事に着目しています。

どちらも両方同時進行で行う事は難しいので、設立当初はSPで差をつけ、そして時間を掛けてOCを作り上げていくというのが理想となります。

そして戦略ストーリーの肝となるのがクリティカル・コア(転)となります。

クリティカル・コアとは、戦略ストーリーの基盤となり、持続的な競争優位を生み出す源泉となる中核的な価値となります。

クリティカル・コアはコンセプト(起)に密接に関わっている箇所でもあり、クリティカル・コアこそが自らが世の中に提供する「価値」の一番の根っことなる部分でもあります。

面白い事に、クリティカル・コアは単体で見れば一見して非合理なものに見えます。しかし、戦略ストーリー全体で見ると初めて合理性が見えてくるようになります。

この「一見して非合理である」という特性こそが戦略ストーリーの強さを決定づけるキラーパスであり、さらには模倣することを他者が自主的に回避するという効果まで生み出してくれます。

基本的に「一見して合理的」な要素に関しては、競争関係にある他社もその良さを容易に認識して真似しようとしてくるため、その逆を行く「一見して非合理である」という事は特に強力な競争優位性を生み出してくれるという訳ですね。

最後に、競争優位というのは今までに述べた戦略ストーリーの起承転結が全て一貫している必要があり、ストーリーを構成する要素の間に敷かれたパス1本1本が太く強靭で、またパスの数が多いほど、より優れた競争優位性を持つ戦略ストーリーとなっていきます。

感想

難解になりがちな経営戦略に関する本であるにも関わらず、経営戦略を「ストーリー」という切り口で分かりやすく体系立てて論じてあり、とても勉強になり面白い本でした。

本書の中では優れた戦略ストーリーを持っていた実際の企業の事例としてマブチモーター、ベネッセ、サウスウェスト航空、ホットペッパー、アスクル、スターバックス、ガリバー等を取り上げており、今までに自分が意識した事が無いような視点で企業の強みや戦略ストーリーが解説されていて、まさに目から鱗でした。

戦略ストーリーの重要なポイントであるクリティカル・コアは企業や業種によって様々なのでしょうが、強力なクリティカル・コアは「一見して非合理」であり、それゆえに他社の模倣を遠ざけるというポイントには不思議と腹落ちする感覚もありました。

企業を見る際にも、戦略ストーリーをどのように組み立てているのか、という視点で見てみると多くの気づきが得られそうですね。

それでは、また~👋

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