【読書感想】幸福の資本論

今回は『資本論』繋がりで、以前紹介した臆病者のための株入門と同じ橘玲先生による著書『幸福の資本論』の内容まとめ及び感想となります。

幸福度ランキングが更新されるたびに毎度その順位の低さで話題になる日本において、幸福を感じながら生きていくためにはどのようにすればよいのかを分析し、今後の生き方の提言をしてくれる内容の本となっています。

幸福に生きるための3つの資本

まず前提として、現代日本に生まれてきた時点でかなりの幸運と本書では述べられています。

一時期は「3〇目の夕日」のように昔は良かった的な風潮が流行った事がありますが、基本的にはそれは美化された内容で、経済/科学技術/衛生環境/医療技術などあらゆる面から見ても、現代日本が一番恵まれていて豊かである事は疑いようがありません。

それなのに、なぜ幸福を感じる事ができない人が多いのか。

著者は根源的な問題として、「人間は幸福を生きる事を目標にしつつも、幸福に生きられるようには設計されていない生物」である事が原因であるとバッサリ言い切っています。

しかし、そうであってもなお、以下に紹介する3つの資本(金融資産、人的資本、社会資本)を用いることで、より安定的に幸福を感じられる人生を設計する事は十分に可能、というのが本書の提言です。

人間が幸福を感じるための条件としては、自由である事、自己実現出来ている事、共同体(絆)を感じられる事、この3つが必要とされています。

この3つの条件は3つの資本(金融資産、人的資本、社会資本) とそれぞれ直結しているため、これらを調達して投資し上手く運用することで、効率良く「幸福」というリターンを得る事が出来るようになるという訳ですね。

金融資産

まず “自由である事" の実現に必要なものが金融資産となります。

本書はいきなりお金の話から入りますが、現実問題として現代の世の中で組織に過度に依存せずに生きていくためには、金融資産から得られるお金が最も支えになる事は疑いようもありません。

世の中の多くの人は会社員で高い年収を得られる職業に憧れを持ちますが、実際に世の中で一番お金を持っているのは法人の立場を活用して経費利用と節税が出来る中小企業のオーナー社長となります。

なので、最終的な本項の到達点は中小企業のオーナー社長になってお金を稼ぎ、それで蓄えた金融資産を運用して不労所得を得る事、となるようです。

一方で、金融市場は過去と比べて世界的に低金利の状況が続くと見られており、世界を牽引する米国の株式市場も将来に渡って成長し続ける保証があるわけでもありません。

したがって、昨今の低金利・低成長が続いている時代には次で述べられる人的資本の強化が必須となります。

人的資本

人的資本とは、自分の能力を用いてお金を稼ぐ力の事になります。

前項で述べたとおり、低金利の環境下では金融資産から得られる所得の重要性は下がるため、自分でお金を稼ぐための人的資本の重要性は過去よりも高くなっています。

この人的資本は金融資産とは異なる特殊な要素も持っており、幸福に生きるのに必要な条件の1つ “自己実現出来ている事" と密接に関わってきます。

人間はどうも、自分がやりがいを感じる仕事をし、その対価に見合うお金をもらう事で自己実現出来ていると感じるように出来ているようなので、その条件に合う環境下に身を置くことが重要になってきます。

しかし、海外のジョブ型雇用の正反対に位置するメンバーシップ雇用の立場にいる日本の会社員では、やりたくもない仕事を嫌々やらなければならない状況が往々にしてあるため、会社員のままで自己実現を求めるのは中々の困難となります。

したがって、人的資本で自己実現による幸福を得るためには、会社の外に出てフリーエージェントとして自分の好きな分野で働く、という道筋が見えてきます。

社会資本

最後の社会資本は、愛情や絆などの人間的な幸福を生み出す資本となります。

人類というものは長い石器時代を経てここ数千年程で現代にいたる文明を築き上げましたが、一方で肉体、脳、認知能力や精神構造といったものは石器時代の頃から対してそれに見合うほど進歩していないと言われています。

そのため、愛情や絆などの幸福は太古の昔からそうであったように、社会資本から得るほかありません。

社会資本は言い換えれば人間関係そのものとも言えますが、大別すると自分に近い順に “愛情空間"、"友情空間"、"貨幣空間" という3重の輪を描くことができ、自分に近いものほど幸福度に非常に大きく影響します。

人類が石器時代から馴染みがあるのが “愛情空間" と “友情空間" になりますが、最後の “貨幣空間" という金銭を介してのみ繋がる緩く弱く広い繋がりは、人類の歴史でも最近になってから登場した新しいものになります。

おもしろいのが、"愛情空間" と “友情空間" は感情面が支配する非合理でコントロール不能な世界であるのに対し、"貨幣空間" は経済合理性だけが支配するシンプルでコントロール可能な世界となっており、全く異なるルールで動いているところです。

幸福に生きるための社会資本の運用の仕方については、本書は “愛情空間" と “友情空間" は必要最小限の範囲に狭めて深度を深くしつつ、残りは “貨幣空間" でのシンプルで緩く弱く、しかし広大な繋がりのコントロール可能な人間関係で構築する事を提案しています。

感想

読んでみた感想として、橘玲先生らしい様々な分析と示唆と皮肉に富んだ内容となっていました。

本の内容は3つの資本の解説を中心に、現代日本の社会問題等の話へ寄り道しながら展開されるため、色々な面で説得力がありました。

現実的には3つの資本全てを手に入れることは非常に困難だと思いますが、せめて1つか2つの基盤を得ることを目指して生きていけるようにしたいですね。

それでは、また~👋

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