資本コストって何だろう【価値を生み出す分水嶺】

株式投資を行う投資家は大別すると、株価チャートの短期の値動きを予想しながらお金を投じるギャンブル性の高いスタイルの人と、企業の財務状態や企業価値を計算し、将来にかけて長期的な成長を期待してお金を投じるスタイルの人の2種類に分けられると言われています。

今回は、後者のスタイルで株式投資を行う投資家ならば、出来るだけ気に掛けておきたい資本コストについて説明してみます。

資本コストとは?

資本コストとは、ざっくりと言えば株式会社が調達している資金に対して継続的に掛かるコストの事を指します。

上場している株式会社は、大きく分けて2通りの資金調達方法があります。

1つは銀行等からの借り入れや、社債発行などの方法で調達する方法、平たく言えば借金による資金調達

もう1つは株式公開や新規株式発行により調達する方法、つまり自社の株式を投資家に買ってもらって資金調達する方法です。

借金による資金調達には利子が掛かりますが、この場合、借金の利子が資本コストにあたります。

借金の場合はこのように資本コスト=利子と分かりやすいのですが、それでは株式による資金調達には資本コストは掛からないのでしょうか。

一見すると株式による資金調達では利子のようなコストは掛からないように思いがちですが、実際のところは投資家に株式を買ってもらう以上は、株式市場に存在する他社の株式よりも優れたリターンを出す事が投資家から期待されているので、その期待されている分だけ株式による資金調達にはコストが掛かっていると言えます。

株式に掛かる資本コストの求め方

それでは、株式に掛かる資本コストはどのように求めればよいのでしょうか。

誤解を恐れず言えば、資本コストが投資家が求めるリターンである以上は、資本コストの基準は投資家自身が好きに決めても構わないと考えます。

なので、利回り3%で十分と考える投資家にとっての株主資本コストは3%になるし、利回り6%は欲しいと考える投資家にとっての株主資本コストは6%になります。

一方で、もう少し客観的な数値を求めてみたいという場合には、株価の感応度 β(ベータ) を用いて算出する CAPM(キャップエム)という考え方で株主資本コストを算出するのが一般的とされています。

β(ベータ)を用いた株主資本コストの算出方法

β(ベータ)は以前記事に書いた事がありますが、意味合いとしては株式市場を代表する株価指数に対して個別銘柄が過去にどのような値動きをしたのかを表した数値となります。

株式投資で得られるキャピタルリターンは、直接的には株価が上下に値動きすることで得られるものなので、この性質を利用して株主資本コストを定義してみようという発想が CAPM の考え方になります。

数学的には、以下の式を用いて株主資本コストを算出します。

CAPM の計算方法

CAPM = リスクフリー金利 + 個別銘柄の β 値 × 株式市場全体を代表するリスクプレミアム

ちょっと難解な感じの式が出てきましたが、それぞれの要素の意味はこうなっています。

①リスクフリー金利:
リスクを負わなくても得られる利回りを指しており、具体的には日本や米国など財政破綻の心配の少ない、先進国の長期国債(10年国債など)の利回りの事を指す。リスクの無い(=リスクフリー)金利。

②株式市場全体を代表するリスクプレミアム:
株式市場全体へ投資して得られるリターン(株式益回り)と、長期国債等から得られるリスクフリー金利とのリターン差分を指す。株式益回りとはPERの逆数を意味する(詳細は以前の記事を参照)。すなわち、株式市場全体と同じポートフォリオのPERの逆数から、10年物国債等の利回りとの差を計算する事で求められる。

図で示すと、以下のような概念になります。

CAPM(株主資本コスト)の概念図

株式市場を代表する指数(S&P500 や TOPIX 等の指数)を β = 1 として基準に据え置くと、株価変動の激しい個別銘柄の β は 1 より大きく、株価変動の少ない個別銘柄の β は 1 より小さい値をとります。

これは言い換えると、株価変動の激しい(β > 1)個別銘柄は、すなわち株式市場全体よりも大きいリターンを投資家達が求めており、株価変動の少ない(β < 1)個別銘柄は、すなわち株式市場全体よりも穏やかなリターンで十分という事を意味しています。

したがって、株式市場を代表するリスクプレミアム(β = 1 の時のリスクプレミアム)に、それぞれの個別銘柄の β を掛け合わせる事で、それぞれの個別銘柄に対して投資家達が期待しているリターンを計算する事が可能…という理屈なのですね。

加重平均資本コスト(WACC)の計算方法

CAPM によって株式の資本コストを算出できたら、借金の資本コスト(=利子)と組み合わせて、その会社全体が背負っている資本コストを算出する事ができます。

会社全体が背負っている資本コストは、加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital, WACC)という計算方法で求める事が出来ます。

具体的な計算式は以下図を参照ですが、ようは有利子負債の資本コストと株式の資本コストの2つをBS的な発想でブレンドして算出したのが加重平均資本コストというわけですね。

加重平均資本コスト(WACC)の計算式と概念図

ちなみに、有利子負債の資本コストに(1-実効税率)を掛けるのは、有利子負債の利子の支払いは税引前に行われるため、税率分だけ資本コストが軽減されるという発想のためです。

ROIC と併用して、企業が生み出す付加価値の利回りを確認する

長々と資本コストの説明をしてきましたが、この資本コストはどのように評価すればよいのでしょうか。

資本コストを評価する際には、以前説明したROICとの比較で判断します。

ROICとは、株主資本と有利子負債の金額に対して企業がどの程度の利益を生み出せているかを表した指数ですが、この指標が資本コストを上回っていれば、その企業は事業を通じて経済的価値を生み出しているという事を意味しています。

ROIC > 加重平均資本コスト(WACC)の場合、企業は経済的価値を生み出す事に成功している
ROIC < 加重平均資本コスト(WACC)の場合、企業は経済的価値を生み出す事に失敗している

理論的には、正の経済的価値を継続的に生み出す続ける事で、企業は投資家にとって初めて価値ある存在となります。

つまるところ、投資家にとって長期投資に適した企業かどうかを判断する基準として、ROIC > 資本コストとなっている事は最も必要な条件である事が分かります。

おわり

以上、今回は資本コストの説明と、それが長期投資家にとって重要な指標であることを説明してみました。

資本コストの計算はβの算出が必要だったりしてなかなか面倒なのですが、長期投資しようとしている企業が本当に投資に値するかどうかを客観的に測る際には確認しておきたい指標なので、興味のある方は計算してみる事をおすすめします。

個別銘柄の β の値は note の方で毎月更新しているので、参考になれば幸いです。

それでは、また~👋

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