決算書の読み解き方③【貸借対照表】
今回も決算書の貸借対照表の解説の続きとなります。前回記事の続きとなっていますので、まだ読まれていない方はそちらを先に参照頂けると、より理解しやすいと思います。
貸借対照表から読み解けるもの
前回記事で説明した通り、貸借対照表は以下の図のように資産/負債/純資産(自己資本) という3つの部で構成されています。
この構成は複式簿記という会計技術によって成り立っています。面白いのは全世界の企業は“共通して複式簿記で会計されている”という所で、これのおかげで世界をリードする米国企業や欧州企業などの決算書も、日本企業と同じ基準で評価ができるようになっています。
(実際には会計基準には数種類あり、世界基準とされる IFRS、米国会計基準、日本会計基準というように考え方がやや異なることがあります。)
なおここからは、実例として資生堂の2019年12月の決算書を参考に解説していきます。
貸借対照表からは、主に以下を読み解くことができます。
自己資本比率
自己資本比率とは、総資産に対する自己資本の割合の事を示しており企業の財務面での安全性を示す指標となります。
自己資本比率 = 自己資本 / 総資産
これは、誰かにいずれ返済する必要のない企業の実質的な財産が、総資産のどの程度をカバーできているかを表す比率であり、高いと財務面で安全、反対に低いと財務面で危険である事を意味しています。
例として紹介する資生堂の場合、総資産額 1,218,795 M¥(1兆2187億95百万円) に対して自己資本は株主資本 504,092 M¥、その他の包括利益累計額△7,654 M¥ であるため、以下のように計算されます。
自己資本比率 = (504,092 M¥ – 7,654 M¥) / 1,218,795 M¥ = 0.407 ⇛ 40.7%
自己資本比率の適正なレベルは業種によってまちまちですが、おおむね大体 30-40% くらいであれば特に財務面での問題は無いと考えられるので、例として挙げた資生堂は全く問題無いレベルにあると言えます。
純資産の部には上記の「株主資本」や「その他の包括利益累計額」の他に「新株予約権」や「非支配株主持分」のような項目がある事がありますが、これらは通常、自己資本には計上しない形で計算するので注意。
有利子負債比率 (Debt Equity Ratio)
有利子負債比率とは、借入金や社債など金利のある借金(有利子負債) と、自己資本とのバランスを表した指標となります。
英語の頭文字をとって DER、もしくは D/E Ratio と表記されることもあります。
有利子負債比率 = 有利子負債 / 自己資本
有利子負債は負債の部に計上されている以下のような項目を合計して計算する事ができ、例として紹介する資生堂の場合は 222,017 M¥(2220億17百万円) が2019年度末時点で持っている有利子負債の総額となります。
- 短期借入金 120,496 M¥
- 1年内返済予定の長期借入金 ¥730 M¥
- 1年内償還予定の社債 15,000 M¥
- 社債 ¥15,000 M¥
- 長期借入金 70,791 M¥
先程計算した自己資本 496,438 M¥ (=504,092 M¥ – 7,654 M¥ で計算) と比べると、資生堂の有利子負債比率は以下となります。
222,017 M¥ / 496,438 M¥ = 0.447 ⇛ 44.7%
有利子負債比率は業種によって基準値は異なりますが、一般的には100% 超えない程度であれば財務面での安全性は問題無いと言われています。
したがって、資生堂の44.7%という値はかなり安全域にあると考えられます。
BPS (Book-value Per Share)
BPS とは、純資産(もしくは自己資本)を発行済み株式の数で割った、1株当たりの純資産の大きさを表しています。
BPS = 純資産 / 期中平均発行済み株式の数 (自己株式を除く)
例として紹介する資生堂の場合、自己資本 496,438 M¥ (=504,092 M¥ – 7,654 M¥ で計算) に対して期中平均発行済み株式数 (自己株式を除く)が 399,411,340 株なので、一株当たりの自己資本額は ¥1,242 となります。
496,438 M¥ / 399,411,340 株 = 1,242 ¥/株
この指標は単体で評価されることはあまりなく、次に紹介するPBRを評価するために算出します。
PBR (Price Book-value Ratio)
PBR とは、株価を先程のBPSで割る事で算出でき、企業に対する市場の評価の度合いを表す指標となっています。
PBR = 株価 / BPS(1株当たりの純資産)
普通あり得ませんが仮定の話として、企業がある日突然「本社は今日限りで解散します!😖」と宣言する様な事態になった場合、企業がその時点に持っている自社の資産(=自己資本)はすなわち株主の所有物であることから、その企業の持つ自己資本の金額が株数に応じて株主へ還元される事になります。(これを企業解散価値と呼びます)
例として挙げる資生堂の場合だと、先ほどの BPS = 1,242 ¥/株が株主へ還元される価値という事になります。
一方、株価というのは企業の市場評価価値を意味している事から、株価/BPSは1を境目にして以下のようなことを表す指標となります。
- 株価/BPS が 1 を上回る = 1株あたりの(企業の)資産価値よりも高い価値があると市場は評価している ⇒ 人気、安定、業績好調な企業
- 株価/BPS が 1 を下回る = 1株あたりの(企業の)資産価値よりも低い価値であると市場は評価している ⇒ 不人気、危険、業績が悪い企業
資生堂の場合は 2019年末の株価が ¥7,800 ほどで、¥7,800 / ¥1,242 = 6.28 と 基準の1よりもはるかに高い水準になっている事から、市場から高く評価されている人気の企業という事が読み取れます。
まとめ
以上、今回は貸借対照表から読み取れる以下の4つの指標について解説してみました。
どれも個別株投資には欠かせない指標なので、長期投資を考えている場合はしっかりチェックしていきましょう!
自己資本比率 = 自己資本 / 総資産
有利子負債比率 = 有利子負債 / 自己資本
BPS = 純資産 / 期中平均発行済み株式の数 (自己株式を除く)
PBR = 株価 / BPS(1株当たりの純資産)
以上、記事を読んで頂いた方の参考になれば幸いです✨
それでは、また~。