【読書感想】現代語訳 論語と算盤
今回は、現代日本に続く数多の大企業の創業に関わった明治時代の伝説的な実業家で、身近な所では2024年からの新一万円札に印刷される事になった渋沢栄一氏の思想に触れられる本、『論語と算盤』を読んだ感想となります。
渋沢栄一氏は日本の歴史上の大きな変革期を生きており、波乱万丈な人生を生きたそうです。
江戸時代末期に農民に生まれ、当初は尊王攘夷の志士として活動するも考えを改めて幕臣として仕えてフランスへ留学、そこで欧米列強の資本主義の世界を知り感銘を受けるも留学中に明治維新が起こり強制帰国、幕府側の人間であったにもかかわらず新政府から請われて大蔵省の官僚として活躍、しかし次第に新政府に嫌気が差すようになり実業家として独立、そして現代まで続く数多の大企業の創業に携わる…となるべく簡単にまとめても壮大な人生を歩んでいますね。
本書は渋沢氏の著書というわけでは無く、彼を慕う人達によって講演の内容を筆記したものとなっています。
論語(道徳)と算盤(経済)
渋沢氏の思想はタイトルの通り、世の中を豊かにするためには『論語と算盤』の両輪をどちらも大切にしていく必要がある、という点に集約されます。
『論語』は古代中国の思想家、孔子の教えをまとめた内容の本で、(渋沢氏の解釈では)『論語』からはあらゆる場面、全ての人に有用な道徳的な教訓が学べるものとなっています。
一方の『算盤』は、渋沢氏が留学中に体感した、強大な国力を持つ欧米列強の根幹となる資本主義経済の事を指しています。
この一見関係無さそうな2点ですが、渋沢氏は欧米の資本主義は国を豊かにするのに有用だが、行き過ぎると富裕層と貧困層の格差が広がりすぎて社会不安をもたらすと既に予見していたため、「国の富は、社会の基本的な道徳観念をベースにした上で築かれた富であるべき」という思想を基に『論語(道徳)と算盤(経済)』のどちらも欠けてはならない、という考えに行き着いたと思われます。
もっと簡単に言い直せば、「自分さえ利益が得られれば良いという考え方では、最終的には自分の利益を損なう結果になる。全員が豊かになれる事を考えよ」という事になりますね。
理想論にしてほしくない『論語と算盤』
『論語と算盤』の思想は割と理想主義的に耳に響きますが、一方で渋沢氏は流石レジェンド級の実業家、いつの世にも貧富の格差が生じるのは(程度の差こそあれ)仕方が無い、と現実をしっかりと見据えて断じています。
理想的には全員が豊かになれるのが望ましいが、人にはそれぞれ能力の差があるため個人間で格差が生じるのは仕方が無い。しかし、その格差の中で個人が豊かになりたいと望んで努力と競争をするからこそ、国全体が豊かになっていく。その上で、自分だけが利益を独占するのでは無く、全員が豊かさを享受できるやり方を探してほしい、というメッセージが本書に込められているのですね。
感想
恥ずかしながら渋沢栄一氏の事は新一万円札の新しい顔に決まるまで殆ど知りませんでしたが、彼の偉業や、行動の根底にある思想が凝縮されている『論語と算盤』は読む価値がありました。
本編の内容は正直、若干説教臭いと感じる部分もありましたが😅、それでも『論語と算盤』には普遍的な考え方が凝縮されていると考えます。
なお個人的には、おまけで巻末に付いている、渋沢氏の一生をエピソードで振り返りながら紹介する「渋沢栄一小伝」が一番面白く、渋沢氏の魅力とバイタリティ溢れる人柄や生き方を追想できて良かったです。
特に渋沢氏が頭取を務めた第一国立銀行(現みずほ銀行の源流企業)の株主布告に記した「銀行は大きな川のようなもの」の文章は渋沢氏の思想を端的に表している事が感じ取れますし、また三菱財閥創始者の岩崎弥太郎氏から持ち掛けられた独占事業の話を、口論をしてまで断り通したというエピソードからも渋沢氏の一貫した生き方が感じられて良かったです。
それでは、また~👋