【読書感想】2030年:すべてが加速する世界に備えよ
今回はお勧め本の内容というよりは、読書感想に寄った記事となります。
最近は、将来の社会はこうなる!というような予想本だったり、間もなく主流になるであろう最新技術や社会トレンドを紹介するような内容の本をよく読んでいます。
その中でも、様々なジャンルの技術革新を網羅的に取り上げている本書を今回紹介します。
著者の紹介
本書は Xプライズ財団CEOであり連続起業家でもあるピーター・ディアマンティスと、ジャーナリスト/作家/起業家の顔を持つスティーブン・コトラーの共著となっています。
“Xプライズ財団" とは何とも怪しい響きの団体ですが(笑)、著者のピーター氏が1995年に立ち上げたこの財団は、新たな産業創出と市場の活性化を目的として様々な方面の技術コンペを開催している団体だそうです。
過去の取り組みとしては2004年に民間で最初の有人弾道宇宙旅行を競うコンテスト「Ansari X Prize」を開催したり、2007年には Google スポンサーで民間で最初の月面無人探査を競うコンテスト「Google Lunar X Prize」を開催したり、日本からも 2018年に ANA スポンサーで視覚/聴覚/触覚を備えた遠隔操作できるアバターロボット開発を目的とした「ANA AVATAR PRIZE」を開催したりしていたとの事。
直近ではイーロン・マスク氏がスポンサーとなり地球上のCO2排出サイクルをリバランスする事を目的とした 「XPRIZE Carbon Removal」といったコンペの開催など、精力的に活動しているようですね。
そんな Xプライズ財団を率いるピーター氏が書いた本著は、取り上げている最新技術の動向も交通/教育/医療/寿命/金融/不動産/環境など非常に多岐にわたるのですが、基本的には技術の「コンバージェンス(融合)」をメインテーマに据えて書かれています。
加速する技術革新と、技術の融合「コンバージェンス」
最近は、テスラに代表されるような最新技術を積極的に導入した電気自動車を製造するメーカーが世界的に大きな注目を浴びるようになり、企業の時価総額もトヨタ等の旧来の自動車メーカーを軽々と越えていくような時代へ移り替わっています。
そして近い将来訪れるであろう自動運転の技術や、更には長年近未来の乗り物としてミーム的な役割を果たしてきた「空飛ぶ車」も、現実的な形ではありながらも、ここ数年で急速にリアルのものとして実現しつつあります。
こういった技術革新が進んでいく背景には、著者のピーター氏いわく技術革新の加速と、最新技術の「コンバージェンス(融合)」があるためだと言います。
テクノロジーの中には、一定間隔で性能が倍増していく一方、価格は下落していくものがあります。
世の中に次々に出てくる新型の集積回路上のトランジスタの数が18か月ごとに倍増している事を示唆した有名な「ムーアの法則」が示すとおり、1980年代にはデスクトップPCは机の上を占有する程の大きさを有し価格もそれなりに高価でしたが、現代においては数万円のスマホの方が当時のPCよりはるかに優秀な性能を持つようになっています。
そして、価格が安くて(昔より)性能が良いコンピュータが簡単に手に入るようになると、さらに高度な技術開発を行うハードルが下がるようになり、技術革新のペースがどんどん加速し、指数関数的に技術の発展度合いが伸びていくことになります。
加速した技術革新によってあらゆる分野で最新技術が生み出されるようになると、今度はそれらの技術が「コンバージェンス(融合)」する事で、更に新たな技術革新を生み出していくようになるのですね。
さきほど例に挙げた「空飛ぶ車」も、最新技術のコンバージェンスによって生み出されたものだと著者は述べます。
「空飛ぶ車」は直接的にはローターで揚力を得て飛ぶ仕組みですが、同じくローターで飛ぶヘリコプターとは異なり、街中で飛ばすには安全性を担保するために揚力を発生させるローターを複数持たせる必要があります。(ローターが複数あれば、一つが止まっても何とか飛行を継続できる)
これを実現させるだけでも「小型で軽くて高性能、かつ安全性が高いモーター」と、「各ローターに電力を安定供給し、姿勢を制御するためにモーター出力を微調整するシステム」、更には「小型で軽くて高出力、かつ安全性が高いバッテリー」、そして世間に普及するためには上記全てが「低コスト」に調達可能である事が求められます。
一昔前までは「空飛ぶ車」のような製品を実現するのはほぼ夢物語、空想の産物でしたが、先に挙げたような技術は既に実現可能なものとして確立され始めているので、「空飛ぶ車」のような製品が主要な交通手段となるのはもうそれほど遠い未来では無いのかもしれません。
他にも、本書はあらゆる病気を根絶できる可能性を秘めた遺伝子編集技術「CRISPER」に関する内容や、人類の頭脳をネットワークで連結して個人の意識を集団意識に紐付ける「ニューラリンク」など、少し恐ろしくも刺激的な未来の話が書いてあり、今後の社会の行く末を色々と夢想する手がかりとなる本でした。